IASTM入門
徒手療法(マニュアルセラピー)は、多くのセラピストにとって治療の根幹をなすものです。では、なぜ近年「IASTM(Instrument Assisted Soft Tissue Mobilization:器具を用いた軟部組織モビライゼーション)」という、専用のツールを使うアプローチが注目されているのでしょうか?
「手技だけで十分では?」「ツールを使うメリットって何?」
そんな疑問をお持ちのセラピストやトレーナーの皆さんに向けて、今回はIASTMの基本的な考え方と、手技にツールを加える主な理由・メリットについて、日本IASTM筋膜リリース協会が解説します。
IASTMって、そもそも何?
IASTMは、特殊な形状と素材(多くはステンレス製)で作られた器具(インストゥルメント)を用いて、筋膜を含む軟部組織の制限を評価し、アプローチするテクニックです。
重要なのは、IASTMは**「徒手療法の技術や知識を補完し、拡張するもの」**であるということです。決して、徒手療法に取って代わるものではありません。セラピスト自身の「手」による感覚や技術と組み合わせることで、より効果的な介入を目指します。
なぜ手技だけでなく「ツール」を使うのか? 主な理由とメリット
手技によるアプローチも素晴らしいものですが、IASTMのツールを使うことには、以下のような特有のメリットがあります。
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より高い精度と深部への到達(Potential):
- ツールのエッジ(縁)を使うことで、手指では捉えにくい特定の筋線維や筋膜の層、小さな癒着部位などへ、よりピンポイントに圧や刺激を加えることが可能です。
- また、テコの原理やツールの重さを利用することで、施術者の負担を抑えつつ、より深層の組織へアプローチしやすくなる場合があります。
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施術者の負担軽減(Ergonomics):
- これがIASTM導入の大きな理由の一つです。手指、特に母指(親指)や手根部への繰り返しの負担は、セラピストの職業寿命を縮める一因となり得ます。ツールが力を補助してくれることで、手指への負担を大幅に軽減し、長期的に活躍できる身体を守ることに繋がります。
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感覚フィードバックの増幅(Enhanced Feedback):
- ツールを介して組織に触れると、組織の微細な変化(ザラザラ感、ゴリゴリ感、振動など)がツールを通じて施術者の手に増幅して伝わってくることがあります。これにより、徒手では感じ取りにくい線維化や高密度の制限部位などを、より客観的に捉えやすくなる可能性があります。評価ツールとしての側面も持っています。
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効率性の向上(Potential Efficiency):
- ツールによっては、一度に広範囲をカバーできたり、特定の刺激を効率的に入力できたりするため、施術全体の時間効率が向上する場合があります。(ただし、常に速いわけではなく、丁寧な評価と施術が前提です)
【重要】ツールはあくまで「道具」。大切なのは「使う人」
これらのメリットは魅力的ですが、忘れてはならないのは、IASTMツール自体が何かを治すわけではないということです。効果を左右するのは、ツールを使う**施術者の知識(解剖学、生理学、病態把握)と技術(評価能力、適切な圧・角度・ストロークの選択、禁忌の判断)**です。
間違った使い方をすれば、効果がないばかりか、組織を傷つけてしまうリスクすらあります。
まとめ:IASTMは可能性を広げる選択肢
IASTMは、徒手療法のスキルを基盤に、ツールという選択肢を加えることで、アプローチの精度、施術者の負担軽減、評価能力の向上といった可能性をもたらします。
「なぜツールを使うのか?」その理由を理解することは、IASTMを学ぶ上での第一歩です。そして次のステップは、**「どのように安全かつ効果的にツールを使いこなし、組織からのフィードバックを感じ取るか」**という実践的なスキルを身につけることです。
日本IASTM筋膜リリース協会では、この「どのように」の部分を、基礎から丁寧に学べるセミナーや講座を提供しています。解剖・生理学に基づいた理論と、豊富な実技練習を通じて、IASTMを自信を持って臨床に取り入れるための土台を築くことができます。
【セミナーのご案内】
日本IASTM筋膜リリース協会では、肩関節の機能障害に対する理解を深め、評価からアプローチまでを体系的に学べるセミナー/ワークショップを定期的に開催しています。
- より高度な触診スキル
- 肩関節複合体の機能解剖とバイオメカニクス
- 実践的な特殊テストの習得と解釈
- 筋膜の視点を取り入れた評価とアプローチ戦略
- IASTMの効果的な活用法(肩関節編)
- 評価に基づいた運動療法のプログレッション
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