「クライアントの痛みがなかなか改善しない…」 「トレーニングやヨガで、特定の部分だけ痛みを訴える方がいる…」
若手の理学療法士(PT)、トレーナー、ヨガインストラクターとして活動する中で、このような悩みに直面することはありませんか? 痛みに対してマッサージをしたり、湿布を勧めたり、痛い動きを避けるように指導したり… もちろん、それらが必要な場合もあります。
しかし、著名な医師ウラジミール・ヤンダが提唱したように、**「治療者は痛み自体よりもむしろ痛みの原因の治療を学ばなければならない」**という視点を持つことが、根本的な改善への鍵となるかもしれません。
今回は、痛みがどのように発生し、悪循環に陥ってしまうのか、そして私たちが本当にアプローチすべき点はどこなのか、ヤンダの考え方を基に探っていきましょう。
1. スタート地点:アンバランスが生む「無理な力」
私たちの身体は、完璧なバランスで成り立っているわけではありません。日々の癖、姿勢、特定の筋肉の使いすぎや使わなさすぎによって、身体には「アンバランス」が生じます。
- 例: 左右の筋力差、特定の関節の硬さ、猫背などの不良姿勢
このアンバランスな状態で身体を動かし続けると、特定の部分には**体力学的(バイオメカニカル)なストレス、つまり「無理な力」**がかかり続けます。この持続的なストレスが、組織の微細な損傷を引き起こす最初のきっかけとなるのです。
2. 悪循環の始まり:「痛みと炎症」のループ
組織が損傷すると、身体は警告信号として**「痛み」を発し、修復プロセスとして「炎症」**を引き起こします。炎症は本来、治癒に必要な反応ですが、過剰になったり長引いたりすると問題が生じます。
- 痛む → 動かさない → 周囲が固まる → さらに痛みが増す
- 炎症が続く → 組織の修復が遅れる → 関節などへの損傷が進む可能性
このように、「痛みと炎症」は互いを増強しあい、負のスパイラルを生み出してしまうことがあるのです。
3. さらなる問題:「神経筋システム」への影響
痛みや炎症は、単にその場の問題だけでは終わりません。関節やその周囲の**神経と筋肉の連携(神経筋システム)**にも影響を及ぼします。
- 例: 痛みをかばうために、本来働くべき筋肉が弱くなったり(抑制)、逆に特定の筋肉が過剰に緊張したり(過緊張)する。
これにより、関節の安定性が低下したり、スムーズな動きがさらに妨げられたりする**「機能障害」**が深刻化していきます。
4. 身体の「苦肉の策」:不適切な代償運動
身体は非常によくできていて、痛みや機能障害があっても、何とか目的の動作を達成しようとします。そのために使われるのが**「代償(だいしょう)動作」**です。
- 例:
- 足首が痛くて、膝や股関節でかばって歩く(不自然な歩行)。
- 肩が挙がりにくいのを、体幹を反らせたり首をすくめたりして挙げる。
- ヨガのポーズで、柔軟性の足りない部分を別の部分で無理に補う。
これらは、身体がその場をしのぐための**「苦肉の策」であり、「不適切な運動プログラム」**と言えます。一時的に痛みは避けられても、代償している部分に新たな負担がかかり、二次的な問題(別の部位の痛みやさらなるアンバランス)を引き起こす原因となります。
5. 私たちが目指すべきアプローチ:「原因」への治療
ヤンダの言葉を借りれば、私たちは痛みを訴えるクライアントに対して、構造的なアプローチ(痛い部位へのマッサージやストレッチなど)だけに目を向けてしまいがちです。しかし、上記の悪循環を断ち切るためには、「なぜその痛みが起きたのか?」という原因を探ることが不可欠です。
- 根本的な筋力や柔軟性のアンバランスは何か?
- 姿勢や日常動作に問題はないか?
- 代償動作が起きていないか? それはなぜか?
これらの原因を評価で見つけ出し、それに対してアプローチすること(例:筋バランスの改善、正しい運動パターンの再学習、姿勢指導など)が、真の改善への道筋となります。
まとめ:症状の奥にある「なぜ?」を追求しよう
痛みは氷山の一角に過ぎません。その水面下には、アンバランス、機能障害、代償動作といった、より根深い問題が隠れていることが多々あります。
若手のPT、トレーナー、ヨガインストラクターの皆さん、ぜひ日々のセッションやクラスの中で、「なぜこの方は痛いのだろう?」「どんな代償が起きているのだろう?」と一歩踏み込んで考えてみてください。その視点を持つことが、クライアントを根本的な改善へと導き、皆さん自身の専門性を高めることに繋がるはずです。
(IASTM協会ブログとしての追記例) なお、筋膜の癒着や滑走不全も、このようなアンバランスや代償動作の一因となることがあります。適切な評価に基づき、IASTMのようなアプローチを取り入れることも、原因解決の一助となるかもしれません。
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