執筆者:日本IASTM筋膜リリース協会代表 / 筋膜の専門家 / 米国ロルフィング協会認定ロルファー:小川
はじめに
IASTMの最高峰「グラストンテクニック®」への正しい道筋
こんにちは! 日本IASTM筋膜リリース協会代表の小川です。私自身、長年「筋膜の専門家」として、IASTMの技術を探求してきました。その中でも、多くのプロフェッショナルが憧れ、目標とするのが、IASTMの金字塔「グラストンテクニック®」です。
この記事では、「グラストンテクニック®の資格は、今、日本で取れるのか?」…この最も重要な問いに対する2025年8月現在の結論から、誠実にお話しさせていただきます。
そして、その厳しい現状を踏まえた上で、
- なぜ、今もなおグラストンテクニック®が最高峰と呼ばれるのか
- それでもグラストンテクニックを学びたい場合の、唯一の公式な方法
- 日本国内で学べる、現実的かつ高品質なIASTMという選択肢
について、私の知見を総動員し、具体的かつ網羅的に解説していきます。
この記事は、ウェブ上の古い情報に惑わされることなく、あなたの現在地から、憧れだけで終わらせないための、現実的なロードマップです。
第1章
【結論】2025年現在、日本国内での公式セミナーは開催されていない
IASTMの世界を探求する旅を始めるにあたり、まず最も重要な事実からお伝えしなければなりません。
1-1. 日本におけるグラストンテクニック®セミナーの現状
結論から申し上げます。現在、日本国内で定期的に開催される公式のグラストンテクニック®セミナーはありません。
かつては日本国内にも正規代理店が存在し、M1(基礎)セミナーなどが開催されていた時期もありました。そのため、今もウェブ上には当時の情報がブログ記事などとして散見され、国内で受講可能であるかのような誤解を生む原因となっています。しかし、2025年現在、そのルートは機能しておらず、グラストンテクニック本社の公式サイト(grastontechnique.com)でも、日本のセミナーはリストされていません。
まずはこの事実を、正確な出発点として認識することが不可欠です。
1-2. それでもグラストンテクニックを学ぶための「唯一の公式ルート」
では、日本在住のプロフェッショナルがグラストンテクニックを学ぶ道は完全に閉ざされたのでしょうか?いいえ、唯一の公式ルートが残されています。それは、海外で開催される公式セミナーに直接参加することです。
アメリカ本国をはじめ、ヨーロッパ、アジアの他国(韓国、台湾、シンガポールなど)では、今も定期的にセミナーが開催されています。グラストンテクニックの公式サイトにある「Find a Course」のページから、開催国とスケジュールを検索し、申し込むことが可能です。
しかし、これにはいくつかの非常に高いハードルが伴います。
- 費用面:数十万円の受講料に加え、渡航費、数日間の滞在費、食費など、総額では70万円から100万円規模の投資になることを覚悟しなければなりません。
- 言語面:当然ながら、講義は現地の言語(主に英語)で行われます。専門的な解剖学用語や臨床理論を正確に理解するには、日常会話レベルをはるかに超える高度な語学力が求められます。通訳を雇う場合は、さらに費用がかさみます。
- 資格面:そして、海外であっても、グラストンテクニックの厳格な**「受講資格」**の基準(医療系国家資格など)をクリアしている必要があります。
この方法は、まさに「狭き門」であり、相応の覚悟と準備、そして投資ができる一部の探求者に限られた選択肢と言えるでしょう。
1-3. オンライン学習の可能性と限界
近年、オンライン学習が盛んですが、グラストンテクニックに関しても、理論やイントロダクションを学ぶためのオンラインコースが提供されることがあります。しかし、これらはあくまで補助的なものです。
IASTMの本質は、ツールを通して組織の感触を捉え、的確な圧とストロークを加える**「ハンズオン(実技)」スキル**にあります。オンライン学習だけで、グラストンテクニックのインストゥルメントを安全かつ効果的に使いこなすことは不可能であり、公式の「グラストンテクニック・プロバイダー」として認定されることもありません。
第2章
なぜグラストンテクニック®は最高峰と呼ばれるのか?- その価値と哲学を再確認 –
では、なぜ多くのプロフェッショナルが、それほどの困難を乗り越えてでもグラストンテクニックを学びたいと願うのでしょうか。その理由を理解することは、この先あなたが他のIASTM技術を評価する上での、重要な「モノサシ」となります。
2-1. ブランドを支える「3つの柱」
グラストンテクニックが最高峰と呼ばれる理由は、単に歴史が古いからではありません。そのブランドは、揺るぎない3つの柱によって支えられています。
- ① 圧倒的なエビデンス(科学的根拠) グラストンテクニックは「効く感じがする」といった感覚論に依存しません。設立当初からインディアナ大学をはじめとする数多くの研究機関と連携し、「なぜ効くのか」を科学的に証明するための研究に莫大な投資を続けてきました。線維芽細胞の活動変化、微小循環の改善、神経反射メカニズムなど、その効果を裏付ける査読付き論文の数は、他のIASTM技術の追随を許しません。この科学的姿勢こそが、医療専門家から絶大な信頼を得る根幹となっています。
- ② 体系化された教育プログラム 前述の通り、グラストンテクニックの教育はM1(基礎)、M2(上級)という階層構造になっています。これは、受講者が解剖学・生理学の知識を基に、段階的かつ安全に技術を習得するための、洗練されたシステムです。誰が教えても一定の質が担保される「標準化」へのこだわりが、グラストンテクニックの信頼性を揺るぎないものにしています。
- ③ 特許取得済みの高品質ツール グラストンテクニック・インストゥルメントは、ただの金属片ではありません。6つのツールは、それぞれが身体の特定の部位に最適化された形状を持ち、材質には適度な重みと振動伝達性に優れた医療用ステンレス鋼が用いられています。そして最大の特徴が、特許を取得した**「ダブルベベルエッジ(二重傾斜縁)」**。この絶妙なカーブと丸みを持つエッジが、組織の異常を術者の手に正確にフィードバックし、かつクライアントの皮膚を傷つけることなく、効果的な刺激を深部へと届けるのです。
2-2. ツールが違うと、何が違うのか?
ツールの材質やエッジの形状は、臨床結果に直接的な影響を与えます。例えば、グラストンテクニック・インストゥルメントの適度な重みは、術者が余計な力を入れずとも、自重で安定した圧をかけることを助けてくれます。そして、精密に加工されたエッジを組織に滑らせると、線維化した部分は「ザラザラ」「ゴリゴリ」とした振動として、術者の手に明確に伝わってきます。これは、安価な素材や、精度の低いエッジ加工のツールでは決して得られない、明瞭なフィードバックです。この「触診能力の増幅」こそが、高品質なツールがもたらす最大の価値なのです。
2-3. 資格の「権威性」がもたらすもの
グラストンテクニック・プロバイダーという資格は、世界中の医療・スポーツ分野で通用する「権威性」を持ちます。それは、あなたが厳しい受講資格をクリアし、標準化された高度な教育を受け、科学的根拠に基づいた技術を実践するプロフェッショナルであることの証明です。このブランド価値が、クライアントからの信頼獲得や、他者との差別化において、強力な武器となるのです。
第3章
【国内での現実的な選択肢】グラストンの哲学を受け継ぐ高品質なIASTM資格
グラストンテクニックを学ぶ直接的な道が日本国内にない今、高い志を持つセラピストやトレーナーは、どの道を選ぶべきなのでしょうか?
ここで重要なのは、「グラストンがダメなら何でもいい」と、安易な選択をしないことです。第2章で確認した「本物の基準(哲学・理論・ツール・教育)」をモノサシとして、日本国内で学べる、質の高いIASTM技術を冷静に見極める必要があります。幸い、国内にも素晴らしい選択肢は存在します。
3-2. 日本国内で受講可能な、主要IASTMセミナー比較
ここでは代表的な2つのIASTMと、私たちの協会について、グラストンテクニックの基準に照らし合わせて客観的にご紹介します。
- ① Smart Tools グラストンテクニックが「治療」に重きを置くのに対し、スマートツールは「機能改善」を強く意識しています。最新の痛みの科学や神経生理学を取り入れ、評価から施術までを非常にシステマティックに学べるのが特徴です。効率性と再現性を重視する、現代的なアプローチと言えるでしょう。
- ② RockBlades (RockTape社) 世界的に有名なキネシオロジーテープ「RockTape」の会社が提供するIASTMです。最大の特徴は「ムーブメント(動き)」との融合。単に筋膜をリリースするだけでなく、その後の動きをどう改善するか、テーピングとどう連携させるか、という視点を重視しています。優しい刺激で神経系に働きかけるアプローチは、過敏なクライアントにも適しています。
- ③ 日本IASTM筋膜リリース協会 最後に、私たちの協会です。私たちは、海外の優れた理論をベースにしながらも、それが日本の臨床現場で本当に使えるものかを常に問い直しています。日本人の繊細な身体感覚や、すでにある素晴らしい手技(整体、鍼灸、マッサージ等)とどう組み合わせれば効果が最大化するか、という「統合的・実践的」な視点を最も大切にしています。資格取得後のコミュニティ運営や勉強会など、学び続けられる環境の提供にも力を入れています。
これらの団体は、それぞれに独自の強みと哲学を持っています。重要なのは、あなたが何を最も重視するのかを明確にすることです。
第4章
あなたに最適なIASTMの選び方とキャリアプラン
では、あなたはどの道を選ぶべきか。最後に、あなたの目的やタイプに合わせた、具体的なキャリアプランの考え方をご提案します。
4-1.「あなたの目的別」IASTM選びのガイド
- タイプA:探求者(The Pursuer) 「費用や時間がかかっても、どうしてもIASTMの起源であるグラストンテクニックを学びたい」。そう考えるあなたは、まさに探求者です。この道を選ぶなら、まず目標とする海外セミナーの時期を定め、語学習得と資金計画を始めましょう。その道のりは険しいですが、達成した時の経験と権威性は、何物にも代えがたい財産となるでしょう。
- タイプB:実践者(The Pragmatist) 「明日の臨床ですぐに使える、高品質な技術を日本で効率的に学びたい」。そう考えるあなたは、現実的な実践者です。第3章の比較表を参考に、ご自身の職種やクライアント層に最も合う団体を選びましょう。例えば、スポーツ選手のパフォーマンスアップが主ならムーブメント重視のものを、多様なクライアントの慢性痛に対応したいなら臨床実践重視のものを、といった選び方が考えられます。
- タイプC:探究者(The Explorer) 「IASTM自体が初めてで、まずはどんなものか体験してみたい」。そう考えるあなたは、知的好奇心旺盛な探究者です。この場合、いきなり高額なセミナーに申し込むのではなく、比較的安価な入門セミナーや、体験会などに参加してみるのも良いでしょう。そこでIASTMの可能性を感じてから、本格的に学ぶ技術を決める、というステップも非常に賢明です。
4-2. どの道を選んでも共通する「成功への鍵」
私が最も伝えたいのは、どのIASTMを選んだとしても、成功の鍵はツールそのものではない、ということです。
- 術者の知識とスキルがすべて:ツールの性能以上に、あなたの解剖学的知識、生理学的知識、そして組織の状態を感じ取る触診スキルが、臨床結果を左右します。
- 資格はスタート地点:資格取得はゴールではありません。そこからどれだけ練習を重ね、臨床経験を積み、学び続けるかで、数年後の姿は全く変わってきます。
- クライアントとの信頼関係:どんなに優れた技術も、クライアントとの信頼関係なくしては成り立ちません。施術内容や、時に伴う皮下出血などについて丁寧に説明し、安心して身を任せてもらえる関係を築くことが、すべての基本です。
4-3. IASTMによるキャリアの拡張
質の高いIASTM技術を身につけることは、あなたのキャリアを大きく拡張します。これまで対応できなかった症例に対応できるようになり、自信が深まる。高単価の自費メニューを確立し、経営が安定する。そして何より、あなたを頼ってくれるクライアントが増え、専門家としての喜びとやりがいが、さらに大きくなるはずです。
おわりに
最高のツールを探す旅路の、その先へ
この記事を通じて、IASTMの最高峰「グラストンテクニック®」の現状と、私たちが進むべき道筋について、ご理解いただけたでしょうか。
グラストンテクニックが現在、日本国内で学べないという事実は、一見すると残念なお知らせかもしれません。しかし、私はそうは思いません。この状況は、私たちプロフェッショナル一人ひとりに、大切な問いを投げかけています。
あなたが本当に手に入れたいのは、「グラストン」というブランド名ですか? それとも、「目の前のクライアントを救うための、本当に優れた器具補助の技術」ですか?
後者であるならば、道は決して閉ざされていません。素晴らしい技術は、海の向こうだけでなく、あなたのすぐ近くにも、確かに存在しています。大切なのは、憧れで思考を止めるのではなく、あなた自身の目で「本物」を見極め、学び、実践し、探求し続けることです。
この記事が、そのための羅針盤となり、あなたの新たな一歩を力強く後押しできたなら、これに勝る喜びはありません。
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少しでも学びが得られたら幸いです(^^♪
少しでも、痛みや不調を抱えている方の改善と、それを提供出来るセラピストの皆様の技術向上に貢献できればと願っております♪
最後までお読みいただき、ありがとうございました♪
日本IASTM筋膜リリース協会-EXA(イグザ)、小川より